もののたたずまい MONO JAPAN
2月2~5日、アムステルダムのLoyd Hotel & Cultural embassyで、日本のクラフトの即売・展示会「MONO JAPAN」が開かれました。以前、この展示会のディレクターである中條さんをインタビューさせてもらう機会があり、その際、中條さんが語っていた「モノだけではなく、モノを作りだす風土、職人の仕事も表現したい」という言葉が印象に残っていました。
実はそのインタビューの前におもしろい体験をしました。それはライデンのシーボルトハウスを訪ねた時のことです。シーボルトはよく知られているように19世紀前半、医師として出島に駐在し、滞在中に日本のあらゆる物を収集しました。その膨大なコレクションの一部がシーボルトハウスに展示されています。
展示物を前に驚きを隠せませんでした。その形、細工、色は歴史の展示物で片づけられない美しさを放っていたからです。日本民藝館を訪れた時、金沢の九谷を工房を訪れた時も作品に感動しましたが、シーボルトハウスの展示物は、その美しさが際立って見えました。
なぜだろう。それは、異国で出合ったからではないかと思いました。日本の中では、工芸品が空気感、湿度、明かりなどバックアップを得て、周囲に馴染んでそこにあるのに対し、異国にある工芸品は、日本の雰囲気という援軍を得ず、作品の色や形などのたたずまいだけで自身を表現します。何もまとわず、むきだしで、見る者に訴えてくる。その土地で何十年、何百年かけて形作られた作品はそんな力強さを持っているのだと気づかされたのでした。
シーボルトハウスで得た感動とディレクターの言葉が重なり、今年で2回目を迎える展示会では作品のたたずまい楽しみにしていました。
Loyd Hotel & Cultural embassyはアムステルダム中央駅からトラムで5分ほど。ひとつの施設に三ツ星から五ツ星の部屋を取り揃え、歴史とコンテンポラリーデザインを融合させたユニークなホテルです。
- たこ焼き屋もでていました
まずは、ホテルのカフェで腹ごしらえ。ホテルの地階に位置するカフェは、高い天井が気持ちがよいです。
地階から6階まで、30以上の展示がありました。テーブルウエアが多く、その他、草木染、藍染めなどの小物や洋服、アクセサリーなどの展示もありました。佐賀、淡路市、福岡、長崎など九州からの出展が多いです。会津若松、兵庫、出雲、広島なども見かけます。人出があったので、残念ながらあまり写真は撮れませんでした。
- 有田焼を各国のアーティストが表現した作品
- 兵庫を拠点にするデザイン会社シーラカンス食堂による播州刃物
イベントホールでの展示のほか、客室も展示室になっていました。展示物は予想を裏切らない美しさでした。個性ある展示室(客室)と呼応し合い、特別な雰囲気を作り上げています。
潔い色や形は、シンプルを好むオランダのデザインと相性がよいように思います。
ディレクターが言っていた通り、作品の個性と空間、展示者が一体となって作品のストーリーを紡いでいました。前にテレビで見た茶道の器作家の「部屋の空気さえ変えてしまう器を作りたい」という言葉を思い出しました。
播州そろばん、着物、クリエイティブイノベーション、茶道などのレクチャーやワークショップも開かれており、海外で自分の作品を試してみたいという展示者の熱気を感じました。
私は、ここオランダで日本の何かを語るのにちょっと抵抗感がありました。何せ着付けも知らないし、茶道も華道もやったことがない、歴史に精通しているわけでもない。たまたま日本に生まれただけで、文化に特別な関心を払ってこなかった自分が異国に来た途端、声高に日本を語るのはちょっと違うかなと。
MONO JAPANを後に、必ずしもそんな風に考える必要はないかもと思いました。なぜなら、モノが与える感動は日本とかオランダとか関係ないからです。いいものはいい。他のビジターの反応からもそれがわかります。生まれた国をまといながらも、その国を知らない人の心にも響く何かがあるのです。
一緒に行ったオランダ人友人が出雲の湯呑を買いました。職人さんが宍道湖の夕日を描いたと語っていました。にじむような朱の色に、湖面を赤く染める夕景が目の前を揺らいでいきました。自分の記憶とプロダクトのストーリーが交差する。幸せなことなんでは…と思いました。そして、異国の人の手に渡ると、また違った美しさを放つのだと思います。