歴史と海とムール貝と ミドルブルグ Middelburg

オランダの南西部に、土地が浸食されたのか、島嶼が浮かんでいるのかはっきりせず、歯欠け土地のように見える場所があります。その土地は、海(zee)の国(land)、ゼーラント州です。

「昔、ゼーラント州出身のボーイフレンドがいたんだけどね、この人と結婚はできないなぁと思ったの」

とオランダ人友人。その意図は?

「将来は故郷に帰るっていいそうだもの。周りは結束の固い親戚縁者友人だらけで、そんなところに単身で乗り込むの、ツライに決まってるし」。

なんかちょっと距離があるんだよね、とはぽーる丼。もともと島だったエリアもあって、オランダ国土からとちょこっと離れているし、しっかりくっついている部分はオランダではなくベルギーだったりするので、微妙な距離感があるようです。なるほど。郷土愛が強いのね、特徴があるのね、観光的には魅力がある土地ということね。

ということでゼーラント州の首都、ミデルブルグに行ってみることにしました。

普段は車ではなく電車を好むのですが、ことミデルブルクに関しては、だんぜん車をおすすめします。ロッテルダムを過ぎたあたりでゼーラントの島というか土地をつなぐ道路を走りながら南下していくのですが、この道路というか長い橋を走るとき車窓に壮大なるデルタプランが見えるからです。

1953年2月、オランダは大洪水に見舞われます。不運にも満潮時に激しい雨風に襲われたため堤防が決壊し、甚大な被害がもたらされました。オランダ全土で約1800人が亡くなり、7万世帯が避難を余儀なくされ、国土の1300㎢が浸水し、3万の家畜が溺れ、4万7000の建物がダメージを受けたといいます。多くの犠牲者を出し、半分以上が浸水したのがスヘルデ、ライン、マース川という3つの川のデルタ地帯、ゼーラント州でした。

この自然災害を機に始まった治水計画がデルタプラン。1986年に全長9キロにおよぶ可動水門の東ステルデ防潮水門が完成します。国を挙げた壮大な仕掛けをまじかに見られるのが、ミドルブルグに至るドライブコースというわけです。サイクリング道も整備されており、ここで国内向かい風自転車競技という何ともユニークな大会が開かれるそうです。

ミドルブルグの前に、ドムブルグ(Domburg)に立ち寄りました。リゾート地として有名だそうです。オランダ人もそうですが、どちらかというとドイツ人に人気だそうです。ヤン・トーロップ、モンドリアンをはじめ印象的な絵をそろえた美術館もありました。

中心をちょっと外れたところではマーケットが開かれていました。同時にRingrijdenという馬の伝統競技も行われていました。先が尖った矢のような棒をもって馬にのり、その矢で目の前にぶらさがるリングをとる競技です。Zeeland Ring Riders Association(ZRV)という競技団体があり、馬は装飾をつけること、人間は古来からのユニフォームを着ると規定されています。競技に使う馬はダッチ・ヘビー・ドラフトという重種馬の品種と決められているそうです。

マーケットで同じような柄、形をしたボタンのようなものをよく見かけます。クッキー型もあります。

これはZeewse Knopというゼーラントの伝統衣装の装飾のひとつなんだそうです。オリジナルは農夫が襟元につけるボタンだったそうで、19世紀後半に表面を平たくした円形の金属を円形の小さな丸で縁どるという今のデザインになったそうです。ゼーラントのシンボルとして、よき土産品として強力にプロモーションしているのがよくわかります。

ずいぶん寄り道した後、ようやっとミドルブルクに入りました。

レトロを上手に使った雰囲気があります。

白いキャップ(Poffer)はオランダの衣装としておなじみですが、ここゼーラントではずいぶんと横にのびたようです。ボタンといい、幅広のキャップといい、オランダでは珍しく”ファッション”へのこだわりが強いように思います。本土から海を隔てた場所にあったため独自に伝統衣装を発展させたそうで、おしゃれというよりアイデンティティなのかな。

ミドルブルグはVOC時代はアムステルダムに次ぐ重要な都市として栄えたそうで、オランダを代表するゴシック建築の市庁舎、16世紀頃にはあったといわれる修道院など、はっと足を止める美しい建物がありました。市庁舎はかつでは鮮やかな赤と黒で装飾されていたそうなので、さらに華やかなまちだったのだろうと思います。

ドートレヒトもそうですが、「かつての栄えた」まちは、その当時の姿をよく残しているだけではなく、ひなびた感じが華になるのがいいですね。

ゼーラントの特産品といえばカキとムール貝です。前にブリュッセルでムール貝を食べた時も「ゼーラント産のムール貝を使用!」と自慢げにメニューに書いてあったっけ。香港のレストランが愛用している気仙沼のアワビみたいな感じでしょうか。

セロリ、リーク、パセリなどの香草と人参とワインで蒸したムール貝料理。野菜サラダ、フリットと食べるのが定番です。貝殻をトングのようにして身を取り出して次から次へと夢中でぱくついているうちに、みんなと楽しい晩餐が、みんな無言の夕餉に変わっていくのは、海鮮ディナーの性で致しかたありません。バケツの底には香草とムール貝から出たスープがなみなみと残っているんですが、なぜか誰も興味を示さない。この料理でいっちばんおいしいのはスープだと思うんだけどな。奇異な目で見られつつ、私は貝殻ですくってスープを楽しみました。

 

オランダとベルギーに挟まれ、本土にがっちり組み込まれることなく独自のカラーを育んできたゼーラントの首都ミドルブルグ。その空気感は濃厚にまちにあり、こぢんまりとしたサイズながらも観光気分も満たされ、お腹も幸せになりました。

 

 

 

 

 

 

2017-11-03 | Posted in Middelburg, まち, ゼーラント州No Comments » 

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