おいしいを醸すまち マーストリヒト Maastricht

「マーストリヒトはね、おいしい、楽しいを知っているまちなんだよ」

かつてマーストリヒトに住んでいた日本人の友人がちょっと得意そうに言います。そのセリフの前か後には、口にはしないけれど、他のまちと違ってネというニュアンスも若干。

確かに、オランダ人友人にマーストリヒトについて聞くと、別格/別物的な意見がよくでます。地図で見ても、オランダの顔をしながらベルギー的な位置。神奈川県に食い込みながら東京都に属する町田市みたいです。

私の住むハーグからは遠いゆえ、なかなか訪れるチャンスが見つかりませんでしたが、ひょんなことからマーストリヒト遠足の機会を得ました。前述の日本人友人に伝えると、ささっと現地に住む友人に話をつけてくれて、マーストリヒト&彼の友人訪問となりました。前日、オランダ人からメールをもらいました。

「近所においしいレストランがあってね、お気に入りなんだ。ランチにご招待するよ」

おいしいレストラン。僕のお気に入り。感動がさざ波のように押し寄せました。なぜなら、オランダで「おいしいレストランがあって、そこに行こう」とご招待いただいたのが、はじめてだったのです。普段の暮らしに質素を求めているわけではなく、おいしいもありますし、レストランで食事することだってあります。ありますが、おいしいを丁寧に扱い、特別感を与える感じは、他のオランダ人から受けたことがなかったのです。日本で、友人と会う約束をし「何食べる?」を相談するときの、ちょっとしたワクワク感が蘇ります。

ハーグから列車で約3時間20分。マーストリヒトに降り立ちます。駅は工事中ということもあって、おいしい感はありません。んー、マーストリヒトの対極にある北のレーワルデンとかフローニンゲンのほうがきれいかなぁ。

中心街へと歩を進めていると、歩道に面してショーウィンドウいっぱいにケーキが飾られている店が。あら、おいしそう! そういえば、この店のように道に面して「寄っといで、入っといで」を誘うケーキ屋って、他のまちにあったかな。

マース川を渡ります。

橋を渡り終えた途端、賑やかなまちなかになります。

オランダのどのまちでも見られるチェーン店がずらずらと並ぶ大通りでも、私が訪ねたどのまちとも違う。ちょっとした坂道があるからか。いや、それだけではありません。ゆるやかな曲線を描く小路、陽気で享楽的な空気感、ディテールに宿る優美さ。その雰囲気は、オランダというよりも、むしろベルギーだと思いました。

マーストリヒトは長い間スペインやフランスの支配下に置かれた歴史があり、オランダで最も古いまちながら、オランダ領となるのは他の州に比べてかなり後のほうです。そもそも、マーストリヒトがあるリンブルフ州はかつてはもっと範囲が広く、1830年のベルギー独立革命の際に2分割されたという歴史があります(オランダのリンブルフ州の首都はマーストリヒト、ベルギーのリンブルフ州はハッセルト)。カソリックの気配もマーストリヒトは濃い感じがします。

オランダ人友人と落ち合い、レストランへ。連れていってくれたのはCafe Tribunalというカフェ。この地で50年以上続いているカフェだそうで、新しさと古さが同居したとても居心地のよいカフェでした。

ご友人はZuurvlees、私はArdennerpateという料理にしました。Zuurvleesは訳すとすっぱい肉。リンブルフの郷土料理で、お肉をビネガーでマリネする前処理からくる名前だそうです。一口いただきましたが、ビーフシチューのような味でした。私は何だかよくわからないけどオススメされたのを頼みました。いい塩梅にコクを残す肉とトッピングの玉ねぎ、ゆで卵がおいしいハーモニーを作り出し、お腹がすいていたこともあってペロッと食べてしまいましたが、後でどちらかとえば苦手なパテだったことを知りました。おいしいは苦手を超える。

ご友人夫妻はとても気さくな方で、「マーストリヒトは素敵なところですね」というと、嬉しそうにうなずきます。奥さんはボランティアでマーストリヒトのガイドをされているそうです。オランダ人は大抵がフレンドリーですが、それに加え、お二人はきちんと着飾っており、奥さんにいたってはオレンジ色のコサージュもつけて歓迎の意を表してくれていました。久しく体験していなかった細やかな心遣い。心に沁みました。

食事の後、緑に囲まれた城壁に案内していただきました。もっと案内してもいいよと申し出てくれたのですが、自分の足と眼で見て回りたい気持ちもあったので、丁重にお断りし、城壁で別れて街歩きをはじめました。歩きはじめるや、再びおいしそうなお店が!

フラーイのお店です。フラーイはリンブルフ名物お菓子です。指をくわえてショーウィンドウを眺めていると、同じように見入っているフランス人女性2人連れ。眼が合うと「これは、入んなきゃね」とにっこり目くばせして、一緒に中に入りました。サクランボ、イチゴ、リンゴ、リンゴとアーモンド…。どれもこれもおいしそうで決められない~。決めかねて、でっかいフライを2つも買ってしまいました。

歩きはじめたばかりだというのに、ひとつ1キロはあろうかというフライを2箱買うなんてアホかと思いましたが、久々の食の誘惑には抗えませんでした。まちあるきの記事なのに、食べ物のことばっかり書いてます(笑)。

まちに華を添えているのが、カソリックの教会です。カソリックの教会は、やはり美しいですね。建物と建物が醸しだす空気感で神と出合うというのは、キリスト教から程遠いところにいる自分もおすそ分けにあずかることができます。カソリックのそういう寛容なところが好きです。

教会の裏の小路も味があります。

世界で最も美しい書店として名高いBoekhandel dominicanenにも行ってみました。

正直に言いますが、ちょっと期待外れでした。というのも、かつての修道院に本棚があるというだけで、書棚の色や材質はいたって普通(黒い色はどうかなと思います)、この建物を活かそうとする創意工夫がないと思いました。柱や天井画を間近に見られるのは貴重でしたが。期待しすぎたのかもしれません。

中心街から少し離れて、城壁に連れていってもらったとき、緑の森からサラサラサラ…とどこか耳慣れた音が聞こえてきました。それは小川のせせらぎでした。オランダは運河が多いので毎日水を見ていたのですが、せせらぎを耳にしたのは久しぶりだったことに気づき、静かな川音にしばし聞き入ってしまいました。

せせらぎがあるということは高低差があるということ。郊外はオランダには珍しく丘陵地帯が広がっているそうです。次回の訪問は、郊外にも足をのばしてみようと思いました。

日本人友人がいうとおり、マーストリヒトは心を豊かにしてくれるまちでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017-08-10 | Posted in Maastricht, まち, リンブルフ州No Comments » 

関連記事

error: Content is protected !!